「蒸し板かまぼこ」は一般的には扇形をしており、魚のすりみを板の上に乗せて蒸しあげています。加熱方法は、一回のみの加熱よりも、二段加熱、つまり、最初は時間を長くとって比較的低い温度で蒸し、次に最初よりも短時間、高温で蒸しあげます。前回も少し触れましたが、使用する原料魚によって、加熱温度とその時間は様々で、さらに単一魚種を使うか、複数の魚種をブレンドして使うかによってもそれらの関係は多様ですので(なんとなく、カメラのシャッタースピードと露出の相互関係に似ています)、ここがかまぼこ屋の腕の見せ所のひとつと言えます。
ところで、すりみを乗せる「かまぼこ板」は一体何のために、どんな役割をしているのかご存知でしょうか。かまぼこ板は、すりみを乗せていなければ、単に「空板(カライタ)」とも呼ばれ、すりみをこの空板に乗せてはじめて〝かまぼこ板〟としての使命を開始する、といえます。この〝開始する〟という私の言い方にはそれなりに理由があります。
かね彦ではかまぼこの板にはモミの木を使っています。大方のかまぼこ屋さんもそうでしょう。このモミの木のかまぼこ板は、白くて、においが少なく、やわらかい、という特徴があります。
まず「白さ」は、板かまぼこに使う原料のすりみはしなやかで、歯切れ良く、弾力となる白身魚(白グチ、スケトウダラ、ワラヅカなど)の白いすりみが高級品とされています。このすりみの白さとそれを乗せる空板の色はマッチしなければなりません。また「においが少ない」というのは、すりみを空板に乗せる際にすりみを付け包丁で成型する土台として便利ということもありますが、すりみは無味、無臭というわけではありませんので、このすりみのにおいを和らげるマスキング効果も果たしております。つまり、空板そのものが強い木の匂いを発すれば主役のかまぼこの風味が損なわれるのです。そして「やわらかい」ことは、もちろん木材加工からしても簡便なのですが、かまぼことしては蒸しあげて冷却するときに出る水分、または自然と表面に付く水分をこのやわらかい板が吸収することによって、かまぼこの保水性を安定させる役割も持っています。さらに言いますと、空板の木目、とくに正目は稀少ですが、板目は板かまぼこを蒸しあげるときに、この〝目〟を通して蒸気が通り、上部のすりみをかまぼことして蒸しあげることに役立っているとも言われています。
私は子供の頃は、ただ食べ終わったかまぼこ板を集めては木工をして楽しんでいましたが、こういう〝使命〟を職人さんから聞くと、なるほどと、カマボコサイエンスにあらためて驚いたものでした。